交通事故を起こさないための認知症チェック方法|高齢ドライバーと家族が確認したいサインを解説

高齢になっても車は、買い物や通院、仕事など日常生活を支える大切な移動手段です。

一方で、

「最近よく道を間違えるようになった」

「信号や標識を見落とすことが増えた」

「駐車するときに車をぶつけるようになった」

「家族から運転が危ないと言われる」

といった変化が増えてきた場合は、一度運転能力や認知機能について確認することが大切です。

認知機能が低下すると、単に物忘れが増えるだけではありません。

運転に必要な、

・周囲への注意

・危険の予測

・状況判断

・道順の記憶

・複数の情報を同時に処理する能力

などにも影響する可能性があります。

そのため、本人だけではなく家族が運転の変化に早く気付くことが、交通事故を防ぐための重要なポイントになります。

ただし、家庭で行う認知症チェックだけで認知症を診断することはできません。

「チェックに当てはまった=認知症」

ということではなく、

「以前と比べて変化が出ていないか」

を確認するための目安として活用してください。

この記事では、交通事故を防ぐために家族でも確認できる認知機能のチェック方法、運転中に現れやすい変化、75歳以上の認知機能検査、運転に不安を感じた場合の相談先まで詳しく解説します。

認知機能が低下すると運転にどのような影響が出る?

安全運転では、非常に多くの情報を短時間で処理しています。

例えば交差点では、

信号を見る

歩行者を見る

対向車を見る

右左折する車を見る

標識を確認する

自分の車の速度を調整する

といった判断をほぼ同時に行っています。

認知機能が低下すると、このような複数の情報を同時に処理することが難しくなる可能性があります。

判断が遅れる

歩行者が横断しようとしているのに気付いても、

「止まるべきか」

「そのまま進めるか」

の判断に時間がかかることがあります。

運転では数秒の判断の遅れが事故につながることがあります。

注意を向けられる範囲が狭くなる

前の車だけに注意が集中し、

横断歩道の歩行者

自転車

横から来る車

などへの注意が遅れる場合があります。

道順を間違える

何度も通っている道なのに、

「どちらへ曲がればいいか分からない」

「目的地へ行けなくなった」

という変化が出ることがあります。

高速道路では、出口や分岐を間違えた後に混乱することが逆走などの危険行動につながる可能性もあります。

信号や標識を見落とす

信号無視や一時停止の見落としなどが繰り返される場合は注意が必要です。

単なる見落としの場合もありますが、以前より頻度が増えている場合には運転能力を確認するきっかけになります。

操作手順を間違える

例えば、

・ウインカーを出し忘れる

・シフト操作を間違える

・駐車時に何度も切り返す

・ワイパーとウインカーを間違える

など、以前にはなかった操作ミスが増える場合があります。

まず確認したい「運転中の認知機能チェック」

認知症の有無だけを見るより、実際の運転でどのような変化が出ているか確認することが重要です。

次の項目について、本人だけでなく家族も一緒にチェックしてみましょう。

道路や道順に関するチェック

以前より道に迷うことが増えた

よく知っている場所でも道順が分からなくなる

曲がる場所を頻繁に通り過ぎる

自宅へ戻る道が分からなくなることがある

高速道路や大きな交差点で混乱することが増えた

信号・標識に関するチェック

信号を見落とすことが増えた

一時停止を忘れる

進入禁止や一方通行の標識を見落とす

右折・左折禁止などの標識を間違える

家族から「今の信号赤だったよ」と言われることがある

車の操作に関するチェック

駐車で車をぶつけることが増えた

車庫入れに以前より時間がかかる

車線からはみ出すことがある

ウインカーを出し忘れる

アクセルやブレーキ操作が急になった

速度調整がうまくできない

周囲への注意に関するチェック

歩行者への反応が遅い

自転車に気付くのが遅い

後方確認をしなくなった

右左折時に周囲を十分確認しない

クラクションを鳴らされることが増えた

運転後の行動に関するチェック

車の傷が増えているのに本人が覚えていない

「どこでぶつけたか分からない」と言うことがある

目的地と違う場所へ行ってしまう

運転したこと自体を忘れていることがある

同じ事故やヒヤリハットを繰り返す

一つ当てはまっただけで認知症ということではありません。

重要なのは、

「以前にはなかった変化が増えているか」

という点です。

家庭でできる簡易的な認知機能チェック

家庭でも認知機能の変化に気付くための簡単なチェック方法があります。

ただし、これらは医師による認知症診断の代わりになるものではありません。

結果だけで運転可能・不可能を判断しないようにしてください。

3つの言葉を覚えるチェック

家族が、

「りんご」

「電車」

「犬」

など、関係のない3つの言葉を伝えます。

一度繰り返してもらったあと、別の簡単な作業をします。

例えば、

「今日の日付を教えてください」

「100から7を引いてください」

などです。

数分後に、

「先ほどの3つの言葉を覚えていますか?」

と確認します。

以前と比べて明らかに思い出せなくなった場合は、記憶力の変化を確認する一つのきっかけになります。

時計を描いてもらうチェック

白い紙とペンを用意します。

円を描き、

1から12までの数字

長針

短針

を書いてもらいます。

例えば、

「10時10分の時計を描いてください」

と伝えます。

確認するポイントは、

数字が正しい順番になっているか

数字が円の片側に偏っていないか

時計の針を正しく描けるか

指示した時刻になっているか

などです。

ただし、時計描画だけで認知症かどうかを判断することはできません。

手の震え、視力、教育歴など他の要因によってもうまく描けないことがあります。

日付・時間・場所を確認する

普段の会話の中で、

「今日は何月何日?」

「今は朝?夕方?」

「ここはどこ?」

などを確認する方法があります。

毎回クイズのように行う必要はありません。

日常生活の中で、

季節

日付

時間帯

現在いる場所

などについて大きな混乱が増えていないか確認します。

簡単な計算をしてもらう

例えば、

100から7を引く

93からさらに7を引く

といった簡単な計算を続けてもらいます。

計算能力だけを見る検査ではありません。

注意を保ちながら情報を処理できるかを見る一つの方法です。

計算が苦手な方もいるため、結果だけで認知機能低下と判断しないでください。

本人より家族が気付きやすい変化もある

認知機能の変化は、本人自身では気付きにくい場合があります。

そのため、家族が以前との違いを見ることが重要です。

例えば、

・同じ話を短時間に何度もする

・同じ物を何度も買う

・財布や鍵を頻繁に探している

・支払いを忘れるようになった

・約束を忘れる

・薬を飲んだことを忘れる

・料理の手順を間違える

・家電の操作ができなくなった

・以前できていた手続きが分からなくなる

などです。

こうした変化と運転ミスが同時に増えている場合は、医療機関や安全運転相談窓口へ相談することを検討しましょう。

家族向け「運転継続を考えるチェック」

次のような変化が繰り返されている場合は、一度本人と運転について話し合うことをおすすめします。

・事故を起こす回数が増えた

・車の傷が増えた

・ヒヤリハットが増えた

・道に迷う

・標識を見落とす

・信号無視をしたことがある

・一時停止をしない

・左右確認が減った

・駐車が極端に苦手になった

・家族が同乗することを怖いと感じる

・警察や周囲から運転について注意された

・本人自身が「運転が怖い」と言うようになった

特に複数の項目が繰り返される場合は、

「まだ免許を持てるか」

だけではなく、

「現在の状態で安全に運転できるか」

という視点で考えることが重要です。

75歳以上は免許更新時に認知機能検査を受ける

現在、日本では運転免許証の更新期間が満了する日の年齢が75歳以上のドライバーは、更新時に認知機能検査を受ける必要があります。

現在の認知機能検査では、

「手がかり再生」

「時間の見当識」

という2つの項目を使って記憶力や判断力の状態を確認します。

以前の制度では認知機能を3つの分類に分けていましたが、2022年5月13日以降は、

「認知症のおそれがある」

「認知症のおそれがない」

という2つの判定になっています。

「認知症のおそれがある」と判定されたら?

認知機能検査で「認知症のおそれがある」と判定されても、その場ですぐに免許が取り消されるわけではありません。

臨時適性検査を受けたり、医師の診断書を提出したりすることになります。

その結果、認知症と診断された場合には、必要な手続きを経て運転免許の取消しまたは停止となる場合があります。

つまり、

認知機能検査

医師による診断など

運転免許についての判断

という流れになります。

家庭で行う簡易チェックの結果だけで免許が取り消されるわけでもありません。

一定の違反歴がある75歳以上は運転技能検査も必要

75歳以上で、免許更新前の一定期間に一定の違反歴がある方は、認知機能検査とは別に「運転技能検査」を受ける必要があります。

対象となる違反には、

信号無視

通行区分違反

速度超過

横断歩行者等妨害

安全運転義務違反

携帯電話使用等

などがあります。

運転技能検査では実際に車を運転し、一時停止や信号通過などの課題を確認します。

対象者は、この検査に合格しなければ免許を更新できません。

認知症チェックだけでは事故を完全に防げない

認知機能に問題がなくても、高齢になることで運転に影響する身体機能が変化する場合があります。

そのため、認知症チェックだけでなく、次の項目も確認しましょう。

視力

標識や信号、歩行者が見えにくくなっていないか確認します。

特に夜間は視認性が下がります。

視野

横から来る自転車や歩行者に気付きにくくなっていないか確認します。

聴力

救急車のサイレンやクラクションなどが聞こえにくくなっていないか確認します。

首の動き

首を左右へ向けにくくなると、車線変更や交差点での安全確認に影響する場合があります。

足の動き

アクセルからブレーキへ素早く足を移動できるか確認します。

反応速度

危険を認識してからブレーキを踏むまでに時間がかかるようになっていないかも重要です。

認知機能に不安を感じたらどうすればいい?

家庭のチェックで気になる変化があった場合、いきなり本人へ、

「認知症だから運転するな」

と伝えるのはおすすめできません。

まずは、

「最近、道に迷うことが増えていない?」

「一度病院で確認してみない?」

「運転の検査を受けてみようか」

など、本人と一緒に確認する姿勢が重要です。

かかりつけ医へ相談する

物忘れや判断力の変化が気になる場合は、まずかかりつけ医へ相談する方法があります。

必要に応じて、

もの忘れ外来

神経内科

老年内科

精神科

などの専門医療機関へ紹介される場合があります。

警察の安全運転相談窓口を利用する

「認知症かどうかではなく、運転を続けても大丈夫なのか相談したい」

という場合には、都道府県警察の安全運転相談窓口を利用できます。

全国統一の安全運転相談ダイヤルは、

#8080

です。

本人だけでなく家族からも相談できます。

運転に不安のある高齢者について、専門知識を持つ職員へ相談することができます。

運転を続ける場合にできる事故予防

認知症ではなくても、運転能力に不安を感じ始めた場合は、運転条件を見直すことが大切です。

夜間運転を避ける

視界が悪くなる夜間や早朝の運転を減らします。

雨の日は運転を控える

雨天では視認性が低下し、制動距離も長くなります。

知らない道路を避ける

複雑な高速道路や慣れていない道路をなるべく避けます。

長距離運転を減らす

疲労すると判断力や注意力が低下するため、長時間の運転を減らしましょう。

混雑する時間を避ける

交通量が多い時間帯では処理しなければならない情報が増えます。

比較的交通量が少ない時間帯を選ぶ方法があります。

サポートカーを利用する

現在の車には、衝突被害軽減ブレーキ・ペダル踏み間違い時加速抑制装置・車線逸脱警報などの安全運転支援機能を搭載した車があります。

2022年からは、本人の申請によって安全運転支援機能を備えた一定の車に限って運転できる「サポートカー限定免許」制度も始まっています。

ただし、安全運転支援装置があれば事故を完全に防げるわけではありません。

装置を過信せず、安全運転を続ける必要があります。

免許返納を考えるタイミング

年齢だけを理由に、

「75歳になったら必ず免許返納」

という制度ではありません。

一方、

・認知症と診断された

・事故を何度も起こしている

・道に迷うことが頻繁になった

・運転操作を忘れる

・家族が同乗できないほど危険を感じる

・本人自身が運転に強い不安を感じている

といった場合には、運転継続について早めに相談することが重要です。

免許返納後の生活も一緒に考える

高齢者へ、

「危ないから免許を返して」

と言うだけでは問題は解決しません。

本人にとって車が、

病院

買い物

銀行

仕事

友人との交流

などに欠かせない場合があるからです。

免許返納を考える場合は、

・路線バス

・コミュニティバス

・乗合タクシー

・通常のタクシー

・家族による送迎

・自治体の移動支援サービス

など、その後の移動方法も一緒に考えることが重要です。

よくある質問

物忘れが増えたら運転をやめるべきですか?

物忘れがあるだけで直ちに運転をやめなければならないわけではありません。

ただし、道に迷う、信号を見落とす、事故を繰り返すなど運転にも変化が出ている場合は、医療機関や安全運転相談窓口へ相談することをおすすめします。

家庭で認知症を診断できますか?

できません。

家庭で行うチェックは認知機能の変化に気付くための目安です。

正式な診断は医師が行います。

時計を描けなかったら認知症ですか?

時計を正確に描けない理由は認知機能以外にもあります。

視力、手の運動機能、教育歴などの影響もあるため、一つの検査だけで認知症と判断することはできません。

75歳になったら認知機能検査を受ける必要がありますか?

免許更新期間が満了する日の年齢が75歳以上の場合、更新時に認知機能検査を受ける必要があります。

認知機能検査で「認知症のおそれがある」と言われたらすぐ免許取消しですか?

すぐに免許が取り消されるわけではありません。

医師の診断などを受け、認知症と診断された場合には、所定の手続きを経て免許取消しまたは停止となる場合があります。

家族から安全運転相談窓口へ相談できますか?

できます。

高齢ドライバー本人だけでなく、運転について心配している家族も警察の安全運転相談窓口へ相談できます。

全国統一ダイヤルは#8080です。

高齢者は全員免許を返納した方がよいですか?

年齢だけで一律に判断するものではありません。

認知機能、身体機能、運転状況、事故歴などを総合的に考えることが重要です。

認知症でなくても高齢者事故は起きますか?

起こります。

視力、視野、反応速度、身体機能、疲労など、認知症以外の要因でも事故リスクが高まる場合があります。

サポートカーなら認知機能が低下していても安全ですか?

安全運転支援装置は事故を減らすための補助機能であり、事故を完全に防ぐものではありません。

認知機能や運転能力に問題がある場合は、装置だけに頼らず医師や安全運転相談窓口へ相談してください。

まとめ

交通事故を防ぐための認知症チェックで重要なのは、

「何点だったか」

だけを見ることではありません。

特に確認したいのは、

以前より道に迷うようになった

信号や標識を見落とす

駐車でぶつけることが増えた

車線からはみ出す

運転中に混乱する

同じ事故やヒヤリハットを繰り返す

といった「以前との変化」です。

家庭では、3語の記憶、時計描画、日付や場所の確認などを通して認知機能の変化に気付くことができます。

ただし、これらは診断ではありません。

気になる結果や運転上の変化がある場合は、かかりつけ医や認知症を扱う医療機関へ相談してください。

また、運転そのものについて不安がある場合は、警察の安全運転相談窓口「#8080」へ本人や家族から相談できます。

75歳以上では免許更新時に認知機能検査が必要で、一定の違反歴がある場合には運転技能検査も必要です。

現在の認知機能検査は、「認知症のおそれがある」「認知症のおそれがない」の2つに判定されます。

「認知症のおそれがある」と判定されても直ちに免許取消しになるわけではなく、その後、医師による診断などの手続きが行われます。

交通事故を防ぐために大切なのは、高齢者から無理に車を取り上げることではありません。

本人、家族、医療機関、警察などが連携して、「現在、安全に運転できる状態なのか」を早めに確認することです。

そして運転をやめる場合には、免許返納後の買い物や通院などの移動手段まで一緒に考えることが、本人の生活と周囲の安全を守ることにつながります。